エピローグ 






久しぶりに花火を見た。

赤、青、緑、ピンク、白、黄色、そして紫。

目を焼きつけるように走る閃光。

どこまでも真っ暗な空に映る花火は、

下に流れる川の水面にもきらきらと幻影を残している。

次々と放たれ、そして消えるそれは、

物悲しいものが残るけれど、同時にとても綺麗だ。

 川原には一直線に沿って屋台が延々と並んでいて、

煙が黙々と立ち昇っている。

少し歩こうと歩を進めば、ごったがえした川辺の砂利道は、人の波で溢れていた。

浴衣を着て華やかにめかしこんでいる人もいれば、

綿あめを手に元気にはしゃぎまわっている子供もいる。

「ねえ、これ取ってよ」

 背後から声がした。

後ろを振り返れば、若い男女が屋台の前で射撃ゲームをしている最中であった。

高校生くらいだろうか、
女の子が奥のほうに無造作に置かれている熊のぬいぐるみを指差している。

それに対して彼氏らしき男の子が困ったように頭を掻いていた。

「別にそれじゃなくてもいいんじゃない」

「やだ、これがいいの」

 見れば、その熊のぬいぐるみは右の最奥にあり、

かなり撃ち難いところにあった。

これは取りにくいだろう。

駄々をこねる女の子に折れ、男の子は銃を持ちなおし、

再度狙いを定めて撃っているが、なかなか目標物は倒れない。

不満げに呟く女の子と、花火の打ち上げ音が重なった。

 ぱらぱらと、散るように空に舞い、連鎖される打ち上げ花火。

肩に仄かに映る菊の花。直樹はぼんやりとそれらを眺めた。

 今日この花火大会に行くことを急に思い立った。

今までそんなことはなかったのに、なぜ今年になってそう思ったのか、

不思議でならなかったが、実際こうやって外に出て花火をぼんやりと眺めていると、

自然と胸のうちに晴れ間が広がっていくような気がする。

 あれは、いつだったろうか。

 同じようにふと思い立ってこの川原に一人で花火を見に行ったことがあった。

そのころは季節はずれの台風のせいで、地面がぬかるんでいたのを覚えている。

 当然花火は中止となり、川原に並んだ屋台はビニールを被せられていた。

曇り空がひろがり、どことなく寂寥を感じさせる小雨の降る人気の無い川原で、

直樹と同じように傘も差さずにただずんでいる一人の青年がいた。

十間隔しか離れていないところから、直樹はその青年をぼんやりと眺めた。

ぱっとしない、それこそ地味という言葉がぴたりとあてはまるような横顔だったが、

なぜか直樹は目が離せずにいた。



 今思えば、それが全ての始まりだったのかもしれない。




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